東京ワインコンプレックス(Tokyo Wine Complex)

今、注目のワイン産地を識る Vol.2
地中海沿岸地域編


今、注目のワイン産地を識る Vol.2 地中海沿岸地域編

ワイン産地として実は古い歴史をもちながら、しかし、その高いポテンシャルにふさわしい知名度を獲得していない国や地域にスポットをあてる、ワインコンプレックス「いま注目のワイン産地を識る」企画。

第2回は、地中海沿岸地域編。この地域は、いずれも「ワイン文化のルーツ」といわれる歴史ある土地ばかり。しかし、なるがゆえに、民族、政治、宗教などさまざまな影響を受けて、ワイン産業が荒波にもまれたこともしばしば。

そうした背景のうえで、近代・現代的なワイン醸造に取り組むチャンスが到来すると、かつての栄光を取り戻そうとするかのごとく、それぞれの地域においてワイン産業の復活が試みられた。そうした努力が、今、まさに実を結ぼうとしている。

ギリシャ(Greece)
豊かな地元品種をもつ、歴史的な産地ギリシャ
ギリシャ(Greece)

世界屈指のワイン文化を有するといわれるギリシャは、紀元前4000年代からすでにワイン造りがおこなわれ、紀元前8世紀中頃には、地中海各地の数多の都市国家において、ワインが造られていた。

ギリシャ各地で造られたワインは、アンフォラと呼ばれる、ふたつの取っ手のついた陶器によって、遠隔の地にまで持ち運ばれた。古代ギリシャ人は、すでに離れた産地のワインを賞玩する楽しみを知っていたのである。

ローマ帝国および東ローマ帝国(ビザンチン)の支配を受けた紀元前146年〜 1453年の間も、ワイン文化は継承され、ことに5世紀頃からは、生活はもとより、キリスト教の儀式に欠かせないアイテムとして、ワインは重要な生産物となった。しかし、11世紀からはじまった十字軍の遠征に巻き込まれ、19世紀初頭まで、ギリシャはオスマン帝国の支配下となる。

オスマン帝国は、イスラム教徒にはワインの製造を禁じていたが、ギリシャ人にはこれを認め、税収とする政策をとった。ゆえに、現在でも200種類以上あるといわれる豊かな地元品種が、イスラム支配下においても絶えることなく継承されたのである。

主な産地は、トルコやブルガリアに接するギリシャ東部のトラキア地方。国際品種の白品種や赤系の地元品種クシノマヴロで知られる、北部のマケドニア地方。白赤ともに国際品種に強い北西部のイピロス地方。穀倉地帯として名高く、豊かな地元品種を誇るテッサリア地方。秀逸な白ワインの産地として知られるアドリア海南部のイオニア諸島。早くからオーガニックへの取り組みが盛んなペロポネソス半島。スティルワインはもとより、すぐれたデザートワインを生み出すクレタ島。注目の産地であるサントリーニ島を含むエーゲ海域の島々などである。

近代的ワイン醸造がはじまるのは1970年代頃から。1971年には原産地呼称制度が導入され、80 〜 90年代には、主にフランスで学んだ醸造家の多くが、古代以来の地元品種復活に取り組みはじめた。

ギリシャはレツィーナに代表されるサバティアノという品種でつくられる、松ヤニの香りのついたワインが有名だったが、むしろ、最近は減少傾向にあり、それに替わる素晴らしいスティルワインが造られるようになった。

各地域の固有品種として、サントリーニ島の白ブドウ品種アシルティコはデリケートで長期熟成の可能な品種、しかも柑橘とミネラルの風味を多く感じるので、魚介類に合うワインとして世界中のワインジャーナリストから注目されている。また、ペロポネソス半島にネメアと中心に一番多く作られている黒ブドウ品種アギオルギティコは、赤系果実の凝縮した風味が特徴。さらにマケドニアを中心に作られているクシノマヴロは、酸味を多く含みながら、タンニンも豊富に含むという、まさにイタリアのネッビオーロ種を彷彿とさせる品種から長期熟成に耐えうる高級ワインも生み出される。

クロアチア(Croatia)
劇的な進化を遂げた、クロアチア紛争からの復活
クロアチア(Croatia)

現在のクロアチアに相当する土地では、古代ギリシャの昔からワイン造りがおこなわれていた。15世紀にオスマントルコの支配下に入ったが、キリスト教徒には例外的にワイン生産が認められ、さらに18世紀にハプスブルク帝国の支配下に入って以降は、オーストリアやドイツ系の品種の栽培がさかんになった。

このように、古くからのワイン文化を継承し続けてきたクロアチアだったが、1990年代初頭にクロアチア紛争が起こると、畑や醸造施設に被害を受けた多くの生産者がニューワールドのワイン産地に脱出し、国内のワイン産業は一時衰退してしまう。

2010年頃になると、90年代半ばからおこなわれたワイン産業復興のためのさまざまな取り組みが実を結ぶようになり、現在ではクロアチアは、これからののびしろが大きい産地として注目を集めている。

従来クロアチアのワイン産地は、大陸部と沿岸部に大別されていたが、2013年からは、大陸東部、大陸西部、沿岸部の3エリアに。

大陸東部は、白系品種のグラシェヴィナやトラミナッツを得意とするボドゥナヴリェ、ブルゴーニュ系の品種やアイスワインで知られるスラヴォニアの2つのサブリージョンを含む。

大陸西部は、モスラヴィア山の南斜面で主に地元品種を栽培するモスラヴィーナ、ハンガリーと国境を接するプリゴリエ・ビロゴラ、白系品種を得意とするザゴリエ?メジュムリエ、スティルワインの他、すぐれたスパークリングワインやデザートワインの産地としても知られるプレシヴィツァ、クパ川沿いに新しく拓かれたぶどう畑が広がるポクプリエなどのサブリージョンを含む。

沿岸部は、「クロアチア最大の産地」といわれるイストラ、白系のゲギッチ、赤系のマラシュティナ、トロイシュチナなどの地元品種で知られるフルヴァツコ・プリモリエ、豊かなミクロクリマに恵まれたダルマチア、大陸性気候の影響が強く、昼夜寒暖差によってエレガントな味わいのワインを生み出すダルマチアンザゴラ、最も古いワイン産地といわれるセントラルナ・イ・ユジュナ・ダルマチアなどのサブリージョンを含んでいる。

スロヴェニア(Slovenija)
洗練された白と親しみやすい赤が特徴、スロヴェニアワイン
スロヴェニア(Slovenija)

現在のスロヴェニアに相当する地域では、紀元前500年頃にはすでにワインが造られていたという。しかし、6世紀にこの地がスラヴ系の民族に支配されると、ワインの生産は一時衰退。その後、スラヴ民族が次第にキリスト教を受け入れるようになるにしたがってワイン醸造も復活し、14世紀以降にパプスブルク帝国の支配を受けるようになると、ワイン産業は大きく発展した。

1991年、スロヴェニアはユーゴスラビアから独立。ワイン産業にさらに力を入れるようになる。

2008年に、EUの基準にもとづくP.G.I、P.D.Oが導入されているが、それ以前の、プレミアムクオリティワイン(Vrhunsko vino ZGP、ドイツワインでいうところの Q.m.P.)、クオリティワイン(Kakovostno ZGP、ドイツワインでいうところのQ.b.A.)、カントリーワイン(Dezelnovino PGO、ドイツワインでいうところのラントワイン)、テーブルワイン、という表記を用いる生産者も多い。

ワイン産地としては、地中海性気候で多彩な土壌を誇るアドリア海沿岸のプリモルスカ地域、アルプス東端のハンガリー平原に広がるポドラウイエ地域、半大陸性気候の南東部ポサウイエ地域などがある。

プリモルスカ地域は赤ワインの生産が多く、白系品種のレブラ、レフォシュク、フリウラーノ、赤系品種のメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ(シヴィ・ピノ)、ピノ・ノワール(モルディ・ピノ)などが栽培されている。

ポドラウイエ地域は白ワインの生産が多く、他にスパークリングワインも知られている。ドイツ系のレンスキ・リーズリング(リースリング)やトラミネッツ(ゲヴュルツトラミネール)、ハンガリー系のシポン(フルミント)のほか、赤系品種のピノ・ノワール、モドラ・フランキニャ(ブラウンフレンキッシュ)なども栽培されている。

ポサウイエ地域は、白やロゼのほか、デザートワイン、ライトタイプの赤ワインが造られる。モノセパージュワインが多いスロヴェニアにあって、複数品種をブレンドしたスタイルのワインが多いのも、この地域の特徴である。

トルコ(Turkey)
実は世界屈指のぶどう生産国トルコ
トルコ(Turkey)

現在のトルコ共和国に相当する地域、古代のアナトリア地方においては、紀元前4000年頃から、ワインが造られており、そもそもVinという言葉はヒッタイト語であるため、一説にはこの地に栄えたヒッタイト文明が、ワイン文化のルーツともいわれている。

以降この地には、ヒッタイト、フリュギア、リディア、東ローマ帝国など、さまざまな民族と文明が栄えたが、1453年にオスマン朝の支配を受けるようになると、飲酒を禁ずるイスラム文化の影響により、ワインの生産は下火となった。

しかし、完全に払拭されたわけではなく、イスラム教徒でない民族にはワイン醸造が許されていた。現在でもトルコが、イスラム教国の中では比較的飲酒に寛容なのは、こうした歴史の影響ともいえよう。

20世紀のはじめには、トルコ共和国建国の父と呼ばれる、ムスタファ・ケマル・アタテュルクが、アンカラに国営ワイン醸造所を設立。これを受けて、民間のワイナリーも作られるようになり、トルコ人による近代的ワイン醸造が開始された。しかし、長く伸び悩みの時期があり、トルコワインが、世界的に評価されるようになるのは、2000年代に入ってから。その背景には、造り手たちの情報共有や、品質向上への取り組み、海外資本の投入など、さまざまな努力があったようだ。

主な産地は、エーゲ海・地中海沿岸、トラキア地方、マルマラ地方、中央アナトリア、アナトリア東部など。そもそもトルコは、ぶどう栽培面積は世界第6位(2014年統計)。しかし、そのほとんどが生食や干ぶどうとして消費され、また一度ワインとなったものも、ラク(スピリッツ)の原料として蒸溜されるものが多い。

したがって、ぶどう品種も多彩である。

白系ぶどうには、生産量の多いスルタニエ(スルタン=オスマントルコの王が食べるほど美味しい、が語源)、香り高いナリンジェ、カッパドキアの周辺地域で生産されるエミル、上品な甘さが特徴のボルノヴァミスケティなどがある。

赤系ぶどうでは、肉厚で大粒なオクズギョズ、オクズギョズに渋味と深みを与えるために混醸されることが多いボアズケレ、軽やかで口あたりの良いワインになるパパスカラス、ロゼに仕立てられることが多いチャルカラスなどがある。

従来、軽やかでフルーティーな、比較的口あたりの良いワインが多かったが、近年、白赤ともに、世界市場で評価されるしたたかなワインが見られるようになった。

レバノン(Lebanon)
旧約聖書時代からの「ブランド」、レバノンワイン

レバノン(Lebanon)現在のレバノンに相当する地域では、紀元前7000年頃にはワインが造られていたらしく、紀元前3000年頃には、現在のレバノンの沿岸一帯に勢力を誇ったフェニキア人によって、この地のワインが地中海世界の各地に運ばれ、エジプトやギリシャでも愛飲されていたという。

当時すでに、レバノンのワインがブランド的な名声を得ていたことは、『旧約聖書』の「ホセア書」からもうかがえる。この書の中に「神を信仰する者は、麦のように育ち、ぶどうのように花咲き、レバノン産のワインのように讃えられる」という一節が見られるのである。

しかし、16世紀になるとイスラム勢力の支配を受けるようになり、禁酒の戒律からワイン生産は衰退。わずかに非イスラム教徒のための儀式用ワインを生産するほどの規模に縮小してしまった。

20世紀に入り、第一次世界大戦後にフランス領となったため、近代的なワイン生産が息を吹き返したかにみえたが、1975年の内戦勃発により再び混乱状態となってしまう。しかし、内戦の治った1990年代以降は、徐々に世界的に評価される品質のワインが造られつつある。

主な産地は、標高およそ1000メートルのベカー高原。土壌はもっぱら石灰質粘度ローム混交土壌で、冬場に雨が降り土壌に水分がたくわえられ、夏場には乾燥した暑い天気が続くという、ぶどうには理想的なテロワールを備えている。

赤ワインが多く、スペイン系のカリニェナ、グルナッシュ、国際品種のカベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなどの栽培がさかんである。

イスラエル(Israel)
戒律を守るコシャーワイン&ブティックワインの産地イスラエル

イスラエル(Israel)イスラエルワインというと、少し以前までは、厳格な戒律に則って造られるユダヤ教徒用ワイン「コシャーワイン」のイメージが濃厚だった。

1980年代、フランスの著名なシャトー、シャトー・ラフィットのエドモンド・ド・ロスチャイルド男爵が、ユダヤ人のイスラエル帰還運動支援のために大規模な投資をおこない、世界中のユダヤ教徒のために「コシャーワイン」のワイナリーを創設した。

「コシャーワイン」は、ワイン造りにまつわる戒律が非常に厳格で、ワイナリーを見学に行ってもみだりにウロウロしてはならない。わけても醸造途中のタンクに異教徒が触れるのは厳禁で、「うっかりパイプを踏んだら、まるまるひとつの醸造タンクが廃棄処分になった」などと、ワインジャーナリストの間で、都市伝説のようにささやかれていた。笑い話やジョークの類ではなく、真面目な注意として、である。

むろん、ワインとして完成し、ボトルに詰められてしまえば、異教徒が触れて構わないし、もちろん飲んでも差し支えない。

近年では、そうした戒律に則ったワインだけではなく、国際市場で充分存在感を際立たせるワインも増えてきている。

こうした流れには、1980~90年代にかけて、気鋭の醸造家による小規模高品質生産「ブティック・ワイナリー・ブーム」が起き、さらに規模の大きな造り手もこの波に乗ったという背景がある。

生産地は、イスラエル北部のガリラヤ地方やゴラン高原、エルサレム周辺のジュデアン・ヒルズ、イスラエル南部のネゲブ砂漠など。ゴラン高原は、水はけの良い火山灰土壌が多く、冷涼。ジュデアン・ヒルズは、石灰質土壌がメイン、標高800メートルほどの斜面が多く、昼夜寒暖差が大きい。ゲネブ砂漠は、雨がほとんど降らないため、水分は灌漑によってコントロールされ、ゆえに濃厚な果実を収穫することができる。

現在栽培されている品種は、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローなど、ほとんどが国際品種。聖書時代には名産地であったものの、その後のイスラム支配などの影響により、在来品種はほとんど見られなくなってしまったのだ。しかし今、土着品種の復活プロジェクトも進行中であるという。今後の取り組みに、さらに期待したい産地である。

※本記事は、2018年6月28日に名古屋東急ホテルで開催された「ワインコンプレックスNAGOYA」会場パンフレットより転載いたしました。
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