ワインスペシャリストビッグ3が語る
2018年 ワイン業界展望
2018年1月15日、銀座クルーズ・クルーズにおいて開催された第一回ワインコンプレックス賀詞交換会の目玉企画のひとつは、日本を代表するワインスペシャリストお三方をお招きしてのパネルディスカッション。業界を知り尽くした目利きならではの視点で、2018年の展望を語っていただきました。
三代目 遠藤利三郎氏 遠藤利三郎商店オーナー。ワインビストロ、ワインレストランを多数経営する傍ら、日本輸入ワイン協会事務局長、日本ワインを愛する会副会長をつとめるなど、幅広く活躍。豊富な知識を駆使したワインエデュケーションには、定評がある。 |
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柳 忠之氏 日本を代表するワインジャーナリスト。ワイン専門誌を中心に、活躍。海外のワイン生産地を熟知し、詳細な現地調査に裏付けられた文章は、多くのワインファンを引きつけ、わが国ワイン文化を牽引している。低価格から垂涎のワインまで、幅広い知識を有する。 |
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藤森 真氏 株式会社シャルパンテ代表取締役。ヴィノシティーなどの飲食店の他、ワインスクールも経営。「こぼれシャンパーニュ」など、常にワインの新しいスタイルに果敢に挑戦し、あらたな可能性を生み出し続けている。フードセミナーなどの実績も多数。 |
高岡2017年、ワインコンプレックスは全国で6回の試飲会を開催。2018年は、9回の試飲会を全国で開催する予定です。まさに、皆さんとともに大きな飛躍をはかりたい2018年頭にあたり、賀詞交換会を開催させていただく運びとなりました。 ついては、少しでもビジネスチャンスにつながるようにと願い、日本を代表するワインスペシャリストお三方をお招きして2018年の展望をうかがい、その達見をビジネスにつなげていこうと考えたわけです。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
遠藤氏・柳氏・藤森氏(以下敬称略) よろしくお願いいたします。
高岡ご存知のことと思いますが、ゲストのご紹介をさせていただきます。遠藤利三郎さんは、飲食店を多数展開され、また日本輸入ワイン協会事務局長、日本ワインを愛する会副会長などもつとめておられます。昨年までは遠藤誠さんのお名前でご活躍でしたが、今年から三代目遠藤利三郎を襲名されました。
遠藤遠藤利三郎でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします。
高岡柳忠之さんは、長年第一線で活躍しておいでのワインジャーナリスト。世界各地のワイン産地の取材にいらっしゃることが多く、なかなかつかまらない(笑)。本日こうしてパネルディスカッションにご参加いただけるのは、とてもラッキーなことです。
柳現地のお話など、させていただきます。
高岡藤森真さんは、飲食店、ワインスクールなどを幅広く展開されている、ワインビジネスの最前線の経営者。「ワインを売る」ということのスペシャリストでいらっしゃいます。
藤森よろしくお願いいたします。
柳このところ、とても顕著なのが、ワインのスタイルの変化ですね。たとえばオーストラリアでは、パイナップルやバターの香りがする、樽香の効いたシャルドネは、ほぼ駆逐されつつあります。今の主流は、タイトで、ミネラル感があり、酸が効いて、のびのあるスタイル。こういうシャルドネは、日本の市場に合いますよね。そう思っていたら、日本へのオーストラリアワインの輸入が、アメリカを抜いて5位になった。もちろん、関税が引き下げられたなどの要因もあるでしょうけれど……。
遠藤日本のワインファンの方の中には、まだパワフルなワインを求める傾向もあります。しかし、2018年のトレンドはやっぱり、軽やかで、食事の邪魔をしないワインになっていくのではないでしょうか。味覚がこなれるまでには、時間がかかるのですよ。たとえばアメリカは、100年前のことを考えれば、そもそもワイン文化圏ではなかったわけです。もちろん一部の地域でワインを造ってはいましたが、ワインを飲むことは決して一般的なことではなかった。そうした「ワインを飲み慣れていない国」でははじめ、ひと口飲んで、解りやすいワインが売れるのです。果実味、パワフル、樽─というようなスタイルのね。
高岡なるほど。
遠藤そういう、20世紀の中頃から一般の人もワインを飲み出した国々の味覚が、ようやくこなれて、ワインというものに馴染みはじめた、というのが、ここ数年の流れ。そういう背景があって、軽やかなスタイルの日常のワインへと需要が移ってきているわけです。
高岡なるほど。日本だけでなく、他の国でも、ワインが日常化しているということなのですね。
遠藤だから、スタイルも多様化するわけです。昔はワインのスタイルを、オールドワールドとニューワールドで区別していましたが、現在ではこの二分類ではワイン区分を見誤ってしまう。ニューワールドの涼しいテロワールで造られる「冷涼系」という第三勢力があり、それがとても大きいですね。今年はますます、その第三勢力が大きくなるのではないでしょうか。
高岡飲食業界におけるトレンドはどうでしょう?熟成肉も定番になってきていますし、2017年には牡蠣小屋の大ブームなどもありました。ワインの可能性やチャンスが、こうした流れにはあるようにも思えますが。
藤森僕は飲食店を経営者であると同時に、年間300軒の食べ歩きをする「客」でもあるわけです。
高岡すごいですね。
藤森インポーターさんの多くは、売り方を間違えている。
高岡飲食店に対して、ですか?
藤森そうです。自分が扱っているワインが「飲食店のリストに載ること」が、ゴールだと思っているインポーターさんが多い。でもそれはゴールじゃない、はじまりなんです。
高岡お店のワインリストに載った後、が重要なのですね?
藤森ワインを提供する和食のお店が増えてきていますよね?遠藤さんがおっしゃったように、素材感を活かす和食と、パワフルなワインは相性が悪い。だからこそ、「和食のこういう料理には、こういう白ワインが合いますよ」とか、「お宅の名物料理には、こういう理由でスパークリングワインが合いますよ」などという説明が必要になる。インポーターさんが、説明をひと言つけ加えるだけで、お店の人の意識が変わり、お客様へのサービスが変わり、したがって売り上げも変わってくる。きちんと顧客を獲得しているインポーターさんは、そういう営業をやっています。
高岡お客様を知ることも大切なのですね。
藤森僕はもう5年も前から、焼き肉のビジネスフェアでワインのセミナーをしています。2018年は、たとえば焼肉店のような、今までワインを出していなかった業態の飲食店が、ますますワインを出すようになるでしょう。そういうお店では当然、ボトルをどう扱うのか、温度などの管理をどうすればいいのか、などという意識が芽生えてきている。そうしたところを、インポーターさんがフォローするべきだと思います。
柳僕はワインの専門誌で、ペアリングの検証をやっていますが、肉の各部位ごとに、それぞれ合うワインを提案した経験があります。焼き肉だけじゃない。寿司やお好み焼きでもやりました。実際、ワインには他のお酒とは比べ物にならないバリエーションがありますから、どんな食事でもペアリングは可能なのです。
高岡細分化していったら、ものすごく可能性がありそうですね。
柳たとえば焼き肉を例にすると、部位だけではありません。焼き方や、塩で食べるのか、レモンをかけるのか、タレならタレで、どんなタレでいくのか?その組み合わせは、まさに無限。
高岡お寿司もそうですね。ネタの種類だけではなく、調理や下ごしらえ、調味料でも、マリアージュは変わってくる……。
柳「このワインは、この料理にしか合わない」ではなく、「こういう風に料理とワインを寄り添わせるんだ」と気づかせると、お店の人たちはがぜん面白がりはじめる。それが、ワインと料理のペアリングを考えるとっかかりにもなるわけです。
遠藤そうなんだよね。知識だけ植え付けるのではダメ。寿司屋なり、焼き肉屋なりの店主に、そのペアリングを体験させることが重要。そうすると、「面白い」と腑に落ちた彼らがアンバサダーになる。彼らが、自分の言葉でお客にプレゼンすることが大事なんです。
藤森あるインポーターさんは、お寿司を食べながら、自分のワインを持ち込んで、ひとつひとつペアリングの感想を大将に伝えていました。合わないものはきちんと、「このお寿司と、このワインは合わない」と説明する。そうすることで、お店の人も共感するのです。だからこそ、お店の人が自信をもって、お客様にワインをすすめられるようになる。
遠藤そういう営業をこまめに積み重ねていくと、逆にお店の方から「こういう料理を出そうと思うんだけど、なにか合うワインはない?」なんて、相談されるようになるんだよね。そうやって信頼関係ができると、お店は、他のインポーターさんに浮気しなくなる(笑)。
高岡それは、人間関係として強いですね(笑)。
藤森洋食=ワインという発想は、ターゲットとして小さい。そうではなく、焼き肉とか、和食とか、今までワインを出していない業態に働きかけるほうが、のびしろがあるでしょう。裾野が広がらないと、絶対数としてワインの消費は増えないですよ。
柳そもそもガッツリ正統派のフレンチというのは、実は少ないですよね。それに、フレンチのレストランが、フランスのワインだけ??ボルドーと、ブルゴーニュと、ちょっとローヌと、あとはシャンパーニュで、というような時代ではなくなってきている。
高岡最近は、あたり前にチリワインがフレンチやイタリアンレストランのリストに載っていたりしますね。
柳なのに、踏み込んではいけないという勝手な壁を築いてしまっているのか、インポーターさんはあまり切り込んでいかない。
高岡フレンチ、イタリアンに対して、その他の国々が……。
柳アルゼンチンであろうが、南アフリカであろうが、東欧であろうが、インポーターさんは、もっと切り込んで、踏み込んでいくべきだと思いますね。フレンチやイタリアンの牙城を切り崩し、食い込んでいくことで、他の国のワインの可能性は、もっともっと広がります。
遠藤日本ほどさまざまな国のワインが輸入されている国は、世界的にもまずない。さらに、さまざまな国の料理を出す飲食店があり、料理にも国境がない。だから、ワインの需要は、まだまだ伸びるはずなんです。
高岡とはいえ、業界全体として厳しい状況が続いていますよね?
遠藤売り方を考えていかないと、売れない時代になってきているんだと思います。旧態依然の手法ではなく、売り方を変えていかないと、取り残されてしまう。
高岡何を求められているかに、敏感に対応するということでしょうか?
遠藤たとえば、チリワインによって、ワインの飲み方、飲まれ方は大きく変わりました。
高岡より身近なものへと。
遠藤そうです。お店で飲むものから、家で飲むものへの変化です。それまでのワインは、素敵で、敷居が高い、憧れの飲み物だった。高級レストランで、ソムリエの説明を「お説ごもっとも」とかしこまって聞きながら、いただくものだった。お茶と一緒ですね。お茶会だの、お茶室だのでは、ルールがとてつもなく難しくて、敷居が高い。しかし、家で飲むなら、美味しく飲めればよいわけで、小難しい束縛から自由になる。ワインも、家で飲むようになって、飲み方のスタイルが大きく変わったのですよ。
高岡当然、売り方も変わる、と。
遠藤それに、若い世代の人にとっては、物心ついた時から、ワインは身近にあるものでしょう?彼らにどうアプローチしていくかということも、今後の大きな課題でしょうね。
藤森国税庁の統計によると10年前、日本人のワイン消費量は年間2?以下だった。それが、5年前には3?くらいになり、今ではおよそ3.8?。
遠藤東京に限っていえば、6?にもなっていますよ(笑)。
藤森若い人には偏見がないですから。むしろビールよりも、情報にあふれたワインのほうが、彼らには親しみやすいのかもしれない。
高岡偏見というと?
藤森たとえばロゼワインには、「甘い」という偏見があります。僕は、ワインのマーケットを切り開いていきたいと常々思っているので、「ぜひロゼワインを売りたい」という希望があった。しかし、僕がそういっているのに、インポーターさんの方が「ロゼワインは売れないんですよ」と、乗り気じゃない。「売れない」んじゃない、「売らない」んです。
高岡はじめから、諦めてしまうわけですね。
藤森「ロゼワインは甘いタイプだけじゃない、辛口もあるし、料理へのマリアージュの汎用性の高さは素晴らしい」と、きちんと説明し、お客様に理解してもらえれば、数字は伸ばせるんです。実際、僕が経営している店舗のひとつでは、ロゼを60種類以上扱っています。説明のない、筋のない売り方をするから売れないのであって、説明をし、筋道を立てれば、確実のワインの消費は増えていくのです。
高岡なるほど。
藤森そのトレンドをつくるのが、インポーターさんの仕事でしょう。「2018年の動向を占う」などというある意味受け身的な発想ではなく、攻撃的に、アグレッシブに、商売をすすめていこうという気構えが大切です。
高岡ワイン業界のスペシャリストであるお三方から、それぞれのお立場で2018年の展望を語っていただきまして、とても有意義なお話をうかがうことができました。正直いって、業界全体は厳しい状況にあると思います。それは、10年、20年という長いスパンで考えると?ということを前提として、です。
柳そうですね。
高岡また、20年前のことを考えると、ワインは儲かる業態だった。しかし今では、素晴らしいワイン、コストパフォーマンスの高いワインを輸入しても、なかなか業者さんが扱ってくれないという状況もあるわけです。
遠藤たしかに。
高岡10年後、20年後に、ワイン業界をさらに発展させるためには、今、危機感を持つべきなのだろうと思います。そこで、ワインコンプレックスとしては、東京のようなワインに積極的なマーケットをどんどん地方につくっていきたいと志しまして、2018年は地方開催を4カ所増やし、試飲会を9回おこなう、と(笑)。
遠藤すごいなあ。
高岡ワインコンプレックスが、インポーターの皆様のお役に立てるとしたら、10年、20年先の市場をつくっていくことなのではないか、と考えています。このディスカッションでお三方からうかがったご意見も、吸収し、消化して、身になるまでには、なかなか時間がかかるでしょう。ワインコンプレックスは、インポーターの皆さんが、今日のディスカッションを身にしていくためのお手伝いをしたいと願っています。そういうきっかけとして、このような会を開催することができたのは、大きなよろこびです。スペシャリストのお三方、ご参加の皆様に、心から御礼申し上げます。
ワインコンプレックスは2017年、日本全国において6回の試飲会を開催し、3600名以上のお客様にご来場いただきました。2018年は、全国で9回の試飲会を開催する予定で、お客様は6400名以上になるかと推計しております。
各試飲会場におきましては、出展されるインポーターさんは、ブースの設営やワインの準備などにお忙しく、また、開場後は大勢のお客様への対応にいとまもなく、私自身、開場をまわって極力皆様にご挨拶をさせていただくようにしてはおりますが、ひと言ふた言交わすのがやっと??という状態です。撤収の際も、大抵は時間に追われて大わらわですから、なかなか腰をすえてお話しすることができません。
今回、賀詞交換会というかたちで、ワインコンプレックスとして第一回の新年会を開催させていただきましたのは、ぜひとも、皆様と、ゆっくりお話しさせていただく機会を持ちたい─と願ったからに他なりません。
また、狭いワイン業界のことですから、インポーターさん同士の横のつながりもあれば、なにかと心強いかと思います。ワインコンプレックスといたしましては、そういうお手伝いができましたら、これに優るよろこびはありません。