最新 各国ワイン事情
スペイン・オーストラリア編
「従来イメージの、先の、先にある『現在』」
高岡信明 ワインコンプレックス代表 |
手島孝大氏 ワインオーストラリア アジア太平洋地域代表 |
大滝恭子氏 スペインワイン 広報事務局 ワインアドバイザー スペインワイン 協会事務局 |
高岡信明(以下、高岡)ワインコンプレックスの試飲会には、世界各国のワインが並びます。お国柄がそれぞれ明確であることがワインの大きな魅力ですが、その「お国柄のイメージ」も近年、大きく変化してきているように感じます。今回は、変革いちじるしい国々の中でも、私自身が大きく変化を感じるスペインとオーストラリアの最新事情をおうかがいしたく、スペインワインのスペシャリストである大滝恭子さん、オーストラリアワインのスペシャリストである手島孝大さんにご参加いただきました。
大滝恭子氏(以下、大滝)ありがとうございます。たしかにそうですね。少し以前と比べると、スペインワインのイメージはずいぶん変わってきている部分があると思います。少し前まではスペインワインというと赤のイメージ、もしくはカバの印象が強かったかと思いますが、近年はそれに加えて、プレミアムなスティルワインの白がフォーカスされることが多くなってきているようです。
高岡なるほど。スペイン=赤ワイン=肉料理、というイメージの連環が、かつてはありましたね。でも、たしかにこの頃では、スペインワインというと、 「白ワインで魚介を」という印象がある。イメージの変化にともなって、マリアージュも変わってきていますね。
大滝DOリアス・バイシャスのアルバリーリョなどは、アメリカやヨーロッパでも注目され、世界的にも魚介とのマリアージュが大人気です。桃や白い花のフレーバーが心地よく、フレッシュで綺麗な造りが高く評価されています。
高岡アルバリーリョは、和食との相性も良いですね。
大滝海に面した地方なので、地の食文化がそもそも魚介と結びついているのです。
高岡国単位から、地方単位へと、より細やかな理解が深まってきている賜物かもしれませんね。
高岡オーストラリアも、ずいぶんイメージが変わりましたよね。かなり以前の「パワフルでフルーティー」というイメージが、 「抑制が効いていて繊細」に変わって、それからも、もう久しいですよね。
手島孝大氏(以下、手島)「クールクライメットの発見などにより、エレガントな造りになっていきている」という流れが世界的な常識になって、すでに6、7年経ちます。オーストラリアの中小規模の生産者に限っていえば、逆に「パワフルでフルーティーなワイン」を造っている方が珍しいといえるでしょう。
高岡そんな中で、最新のトレンドはありますか?
手島さらにマニアックに、ぶどう品種やブレンドなど、独自の造りを実現させる小さな生産者が、オーストラリア中にたくさん出現しはじめました。 「風変わりでクール」という意味で「クワーキー」という言葉がありますが、まさに、最新のオーストラリアワインでは、クワーキーなワインが注目されてきています。
高岡どういう風に風変わりなのですか?
手島たとえば南オーストラリア州アデレードヒルズのジェントル フォークというナチュラルな造り手の赤ワインは、ピノ・ノワールが 85%で、あとはピノグリ、ゲヴュルツトラミネール、リースリングのブレンド。
高岡赤品種に、白品種のブレンドですか?たしかに、風変わりですね。
手島ある意味で、美味しければなんでもアリなんですよね。もちろん、ただ変わっているだけではありません。そこには、造り手のフィロソフィーがきちんとあり、いうまでもありませんが美味しいワインなのです。そういうところが、支持される理由ですね。
高岡そういうワインは、どういう人たちに受けているのでしょうか?
手島クワーキーな造り手は、ネットなどのメディアを使ってそれぞれに情報を発信しています。その情報をキャッチした人びとが、支持し、盛り上がっている…それが、最新のオーストラリアワインのトレンドです。
高岡エライ人が専門誌で褒めて、世界的な知名度を獲得して…という、今まであったケースとは、ちょっと異なるルートですね。
手島造り手自身が情報を発信し、受けた人とコミュニケーションを結んでいるところが特徴です。オーストラリア全体が、ワイン文化の発信地になっている、といえるかもしれません。
高岡ヨーロッパとも、アメリカとも違う、オーストラリア独特のワイン文化ということでしょうか?
手島オーストラリア発信のギリシャ料理やイタリアンが、日本でも注目されていますよね?いずれも、オーストラリアらしい洗練されたサービスやマリアージュが注目されています。世界中から若いシェフやソムリエがオーストラリアに集まってきて、「モダンでスマート」なワイン文化を持ち帰っています。
高岡なるほど、ワインの分野において、オーストラリアスタイルがカッコいい、というわけですね。
手島そうなんです!ようやくオーストラリアが「きた!」のですよ(笑)
大滝そういう傾向はスペインにもありますね。以前、スペイン料理というと、スパニッシュオムレツやパエリア、生ハムといったイメージが強かったかもしれませんが、バスク地方が「美食の地」として知られはじめ、多様であることが認知されはじめています。バスクの料理学校では、外国人を受け入れるコースなども充実して、一辺倒でないスペイン料理が、世界に広まりつつあります。
大滝新しい傾向が生まれてきた一方で、従来のイメージが見直されている、というのも、ひとつのトレンドかと思います。
高岡従来知られていた文化も、ひと味違った楽しみ方がされるようになった、ということでしょうか?
大滝そうですね。たとえば、バスク地方の微発泡ワインのチャコリです。チャコリは気軽な地酒のような位置づけのワインですから、以前はやや酸味が強かったり、苦味があったりして、それを飲みやすくするために、高い位置からグラスに注ぐ「エスカンシアール」というサービスがありました。しかし現在では、チャコリのクオリティがあがり、酸味や苦味が悪目立ちすることはほとんどありません。したがって、エスカンシアールをする必要もないのですが、最近では、純粋にプレゼンテーションとしてエスカンシアールが楽しまれるようになってきています。
高岡動きのあるサービスには、魅力がありますね。
大滝クオリティの高くなったチャコリは、日本の普通の食卓にとても寄り添いやすいんですよ。特にこれからの季節は、お野菜と相性が良い。サラダや冷製ポトフなどと相性が良いことはいうまでもありませんが、枝豆や胡瓜の浅漬けなど、日本の夏野菜とも絶妙な取り合わせです。
高岡重たくなく、シャッキリとした口あたりは、たしかに日本人好みですね。
手島モダンスタイルのオーストラリアにも、似たような傾向があります。そもそもワインの味わいが、エレガントな流れの中にありますから、自然と料理も、ライトで素材感を活かした、 洗練されたものになっていきますよね。
高岡スペインワインやオーストラリアワインには、以前からコストパフォーマンスに優れた印象があり、それは今でも変わっていませんが、 「コストパフォーマンス」の質がだいぶ変わってきているような気がします。
手島10年くらい前までオーストラリアワインでコストパフォーマンスが良いというと、「1000円だけど美味しい」というリーズナブル重視のイメージだった。しかし今では、 「プレミアムワインが、 きちんと美味しい」になってきている。一本のオーストラリアワインに、4000〜5000円を投資する価値が、認知されてきていますね。
大滝そうですね。スペインワインも、5000円出していただくと、かなり高品質なプレミアムワインを楽しんでいただけます。
高岡以前だったら、 「フランスワインに比べて……」などと言われたかもしれませんが、現在では、スペインワインの独自性、オーストラリアワインの独自性が、それぞれに高く評価され、認められてきた。
大滝とはいえ、いまだに、 「このスペインワインは5000円ですが、フランスだったら1万円か、それ以上の価値がありますよ」というような言い方をされてしまうことが多いですけどね(笑)
高岡そこのところを、各国の独自性に落とし込んでいくのが、ワインコンプレックスの課題だと思います。国ごとに特徴があり、魅力がありますからね。インポーターの皆さんが心血を注いで輸入されているそれぞれの国の独自性や魅力を、良いかたちでサポートしながらお伝えできるといいな、と常に思っております。