東京ワインコンプレックス(Tokyo Wine Complex)

2017 どうなる日本のワイン市場


高岡信明 高岡信明
ワインコンプレックス代表
番匠國男氏 番匠國男氏
ウォンズ編集長

2016年統計から、 2017年を読む

高岡今回は、ワイン&スピリッツ専門誌「ウォンズ」の番匠國男編集長においでいただきました。よろしくお願いいたします。

番匠こちらこそ。

高岡「ウォンズ」は1982年11月の創刊。以来30年以上にわたって毎月、ワインとスピリッツ に関わるプロフェッショナルのために、情報発信を続けておられます。ことに、毎年4月号で特集される「日本のワイン市場を読む」では、前年度の詳細なデータに基づく詳細な市場分析と、動向予測がおこなわれており、業界関係者にとっては、まさに必読の書といえますね。

番匠2017年は、ワイン業界にとって、なかなか難しい状況になってきています。 「今のままではいけない」という時期に、いよいよなってきているように思います。

高岡酒類の中でも、特に、ワインが厳しいのでしょうか?

番匠国税庁の2016年酒類課税表によると、ウイスキーや低アルコール飲料は前年より増えてい ますが、他のアルコール類はことごとく前年割れ。ワインも2007年以来9年ぶりの前年割れです。

高岡厳しいですね。

番匠前年割れは、2007年のリーマンショック以来はじめて。これまでワイン業界は、 「大変だ、大変だ」といいつつも、なんとか数字の上では右肩上がりでやってきました。

高岡大手から、小規模なところまでありますからねえ……あくまでも数字の上ですね(笑)

番匠しかし、一昨年の暮れから去年にかけていよいよ厳しくなり、ついに2016年統計で「前年 割れ」という具体的な、数字が出てきたというわけです。

高岡決してそんな安易なものではありませんが、「ワインは儲かる」という噂がささやかれ続けてきましたよね。その神話が、とうとう崩れたということでしょうか?

番匠そうかもしれません。

高岡市場の動向はいかがでしょうか?

番匠業務用の需要がなかなか増えず、ワインの消費はもっぱら家飲みに移行しつつあります。スーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売されている動物ラベルの日常消費ワインが売れているということですね。

高岡スーパーマーケットで買って、家で飲む、というスタイルが、消費者に普及しつつあるということですね。ネットはどうでしょうか?

番匠すごく売れている、というわけではありませんが、活気はありますね。ネットは値段を比べながら買えるマーケットなのでこの点は、これからの伸びしろかと思います。ワインを飲みつけている人が、欲しいワインを手に入れるには便利です。しかし、ネットを一番活用している若い世代には、ワインは価格的に高嶺の花。このあたりのアクセスが巧くいくと、活性化すると思います。

多様化するアイテムのゆくえ

高岡その一方で、インポーターさんの数はすごく増えている。

番匠そうですね。

高岡中には「ワインは儲かる」という虚言に踊らされている例もあるかもしれませんが、多くは、とても熱心に、思い入れのあるワインを輸入している真面目なインポーターさんばかり。

番匠この国、この地域、この造り手のワインに惚れ込んで、個人もしくは数人程度の小さな規模で会社を運営しているケースが多いですね。

高岡そしてどのワインも、 「この国で、こんなに素晴らしいワインを造っているんだ!」と驚くほどクオリティが高い。

番匠とても残念なことですが、そうした人たちが一番「ワインが売れないなあ」と痛感しておられると思います。一昨年から去年、 今年にかけてね。

高岡問題点はどこにあるのでしょうか?

番匠そうした規模の小さなインポーターさんの多くは業務用のマーケットに向けて販売していますよね。

高岡レストラン、ビストロ、ワインバーといったお店、それと小売店ですね。

番匠そういう規模のインポーターさんで、量販店にワインを売っているケースは少ない。した がって、 「業務用需要が振るわず、動きがあるのはスーパーマーケットやコンビニエンスストアで販売されるワイン」という市場動向を、ダイレクトに受けてしまうわけです。

高岡なるほど。

番匠また、特定の国のワインのみを扱っている場合、販売するのは、その国の料理を出すレストランになってしまいがちですよね。

高岡フランスワインだったらフレンチのみ、イタリアワインだったらイタリアン…

番匠ワインリストに話題の外国のワインをもっと加えてもらえると良いのですが。

高岡イタリアンレストランの数はある程度決まっているから、イタリアワインを輸入している 人たちの 「パイの食い合い」 になってしまうわけだ。

番匠また、チリやアルゼンチンの料理を出すレストランは、ほとんどない。

高岡なるほど。

「ワイン市場の構造改革」 が必要な時期に

番匠1964年の東京オリンピック開催に合わせてホテルがオープンし、レストランでワインが提 供されるようになります。 1970年代初めに輸入が自由化されてますますその動きが加速しました。

高岡ああ、そんなイメージがありますね。

番匠その頃、レストランのワイン提供価格は小売価格のおよそ3倍だったように思います。

高岡3倍!

番匠当時の事情を思うと、そのような設定も、あながち解らなくもありません。ワインを扱うのは、まったくのはじめてですからね。ワインを注文するお客さんは今のように多くないうえに、サービスをおこなうソムリエなどの専門家も置かなくてはならない。グラスも、脚つきの立派なものが必要だ。そのグラスを置いておくスペースも必要になる。店の雰囲気、高級感を演出するためのコストもワインの値段に乗せなければならない。

高岡何からなにまで、揃えなくてはならないわけですね。

番匠そういうものすべてひっくるめて計算したら、3倍にしなければ合わないということになってしまったのでしょう。問題は、ワインを取り巻く事情の変わった今でも、当時の「原価率」が生きていて、なかなかレストランのワイン提供価格が下がらないことだと思います。

高岡ワインを提供する飲食店にも、意識改革が必要なのかもしれませんね。

番匠たとえば、スーパーマーケットで売っているワインを、飲食店ではワインリストに載せない。何故ならそれは、お客さんが小売価格を知っているから。 「 1000円のワインが、 3000円で売られている」 と。

高岡「ワインは儲かる」 という言葉が、足を引っ張っているケースですね(笑)

番匠料飲店のワイン提供価格が安くなればもっとワインを注文する人が増えると思います。おいしい料理と一緒にワインを楽しむことができて、しかも後片付けをしなくてよい。家飲みにはない楽しみがあります。

高岡とはいえ飲食店の方にも、全体として儲けが薄いから、 「せめてワインで儲けたい」─という欲求があるのかもしれませんね。

番匠それは、否めないですね。でも、ワインのハードルを取り除くことをしていかないと、今後ワインの消費を増やしていくことは、なかなか難しいと思いますね。

高岡ワインバーが、小売り免許をとって、棚に値段のついたボトルが並んでいて、お客は原価でワインを買って、勝手にコルク抜いて飲む─というスタイルのお店もありますよね。

番匠あれは、すっきりしていて、良いスタイルですね。

高岡ただ、これを一からはじめるには、別会社を立てて、ワインを買って、在庫をもって─と リスクが出てきて…と、ハードルが高くなってしまうのかな?

番匠それなら、酒屋さんがこういう形式でやる、というアプローチもあります。そもそも酒屋さんは、 「モッキリ」とか「カクウチ」というスタイルで、それをやっていたわけですよね。

高岡ワインが普及する当初に構えてしまったことが、ヘンな「常識」として広まってしまい、猫も杓子も─になってしまっているわけですね。

番匠すべてのお店がそうだ、というわけではありませんが、ワインの価格設定がおかしなお店にめぐりあってしまうと、 やっぱり一般の方には「ワインは高い」 と思われてしまいますよね。

ワインの新たなフィールドを

高岡たとえば、イタリアワインをイタリアンレストランにのみ導入してもらおうとしたら、おのずと限界がありますよね。

番匠そうですね。

高岡新たな売り先を考えるとしたら、どのような可能性があるでしょうか?玉砕覚悟でフレンチレストランの門を叩く─という営業方法もあるでしょうが(笑)

番匠フランス料理店はフランスワインだけ、イタリア料理店はイタリアワインだけという原産国の視点で販売する、という思考から脱却する必要があるのでしょう。そう考えると、もう少し選択肢が広がってくるのではないでしょうか。

高岡なるほど。たとえば、 和食や中華、 エスニックなどですね。

番匠お寿司や天ぷらに白ワインとか、鰻に赤ワインなど、ようやく定着してきた感がありますね。

高岡お寿司にワインは、一部ではすっかり定番化していますね。

番匠でも、もっと可能性はあると思いますよ。

高岡どんなジャンルでしょうか?

番匠たとえば蕎麦屋は、昔ながらの「酒を飲む空間」でもありますよね。今でも休日の老舗蕎麦屋は、昼酒を楽しむ人で一杯です。こういうところに、もっとワインが入っていいと思う。

高岡確かに!板わさや山葵芋に白ワインは合いそうだし、蕎麦味噌なども赤ワインと相性良さそうですね。

番匠蕎麦屋にワイン─こういう取り合わせが普及することで、ワインを取り巻く状況のハードルが少しづつ低くなっていくのではないでしょうか?

高岡これは、ワインコンプレックスを運営している私の肌感覚で、データや数字の裏付けがあるわけではないのですが、ここ最近、中国のワインを取り扱うインポーターさんが増えてきているように思います。そうすると、まず最初の段階では、国のアイデンティティーということで、インポーターさんは中華料理屋さんに導入のアプローチをかけますね。

番匠そうですね。

高岡そうしてワインを中華に合わせてみると、案外相性が良くて、お客さんの受けも良い。そうなると中国産以外の、もっと手に入れやすかったり、安価であったりする、たとえばチリやアルゼンチンのワインを導入したり─という具合に、中華屋さんのワイン消費が広がってゆく。

番匠なるほど!

高岡そうやって、開拓されている新たなフィールドもあるように感じるんですよね。営業努力が、結果的に新たなフィールドを耕している……そういう、 実は業界にすごく貢献しているインポーターさんも、おられるんじゃないかな?

番匠そういう開拓は、 とても大切ですね。先ほど、「ワイン市場が厳しい」 といいましたが、 それは「今までのままでいたら厳しい」 ということであって、積極的に改革、開発、開拓に取り組めば、まだまだ可能性はあると思います。

「持ち込み」 の可能性

番匠僕は、よく食事をする近所の店にワインの持ち込みをします。持ち込み料が、 2000円。それでグラス出してくれて、洗ってもくれるわけだから、案外安い(笑)

高岡持ち込み料を低く設定して、積極的に持ち込みをさせてくれる飲食店も増えてきましたよね。いわゆるBYO(Bring Your Ownの略。持ち込み料を払って、飲食店にワインを持ち込むこと。オーストラリアを中心に発展) 的な。

番匠お客さんはまず、酒屋さんで好きなワインを買うわけでしょう?したがってまずは、酒屋さんが儲かる。そして、飲食店は、持ち込み料が入る。お客さんはおいしいワインと料理が楽しめる。そしてワインの消費量が増える。

高岡なるほど!

番匠なにより、お客さんは、持ち込むワインがどういうものなのか知っているわけだから、たとえ料理と相性が良くなくても自己責任なわけでしょう?

高岡たしかにそうですね!(笑)

番匠ワインには、そういう提供の仕方があっていいのだと思います。

ワインの敷居が低くならない大きな問題点とは

番匠ワインの一番大きな問題点は、ワインのことをそれほど知らない人は、ボトルから中身がイメージできない、ということです。

高岡たしかに。記載された情報量は多いですが、よほど詳しくないと、どれが産地で、どれが葡萄品種なのか、よく解らないですよね。

番匠ラベル・デザインが味わいに反映している場合もありますけどね。

高岡ですね(笑)

番匠辛口であるのか、甘口であるのか、重いのか、軽いのか─ビールでも、焼酎でも、消費者は自分なりのイメージを持っていますよね。ところがワインは、それが簡単には解らない。

高岡最初のハードルが高いわけですね。

番匠これまでの日本のワイン消費の歴史が、 「ワインはお高いもの」 できてしまった弊害でしょう。気取ったものにしてきてしまった。それでもスクリューキャップやバッグインボックスなどの採用で徐々に難しさを解消し、スーパーやコンビニでは安さを実現してワインを身近なものに変えてきた。それとはちょっと目先を変えて、飲食店でのワインをもう少し気楽で、着実なものにしていかないと、消費の伸びは見込めないのではないと思います。

高岡なるほど。

番匠ソムリエさんがいて、きちんとサービスしてくれて、 おいしいお料理と合わせてくれる。でも、すべてのワインが、 「そうやって飲まなくてはならないもの」 ではない。

高岡そうですね。高級ワインは、そうして飲むことによって真価が開きますが、気安く楽しめるワインにはそれなりの楽しみ方がありますよね。

番匠今、ちょっと何か専門的なサービスをする人をみんな「○○ソムリエ」 にしちゃうでしょう?あれ、あんまり良くないような気がするなあ。ヘンにお高くしてしまう感じが。 「ワインとは、こういうものだ」 というステレオタイプの常識に繋がっているような気がするんですよね。

ワインを売るために、今、何をするべきか?

高岡これは、ここで答えが出るという話ではないのですが、 「ワインがなかなか売れない」という現状を、どう打開すれば良いのでしょうか?

番匠難しい課題ですねえ(笑)

高岡「解答」ではなく、 「こんなアプローチがあるかもしれませんよ」という提案を、複数提示することが、私たちの仕事だと思うんですよね。少しでも、苦労されているインポーターさんの手助けがしたい─というのが、ワインコンプレックスのそもそも設立動機でしたから。

番匠高級ワインもあり、日常消費ワインあり、また世界のさまざまな国に、ユニークな造り手がたくさんいる。だからワインはなんだか難しい、高級そうなもの」と思われているのが問題なのです。このこんがらかった紐を、もう一度解きほぐして、ワインのさまざまな顔を見せることが大切だと思います。

高岡なるほど!

番匠知名度の高い高級ワインは、売れていますよね。ほとんど売り先も決まっているのだから、それほど大きな問題はない。だけれど、知名度の低い産地の、しかしとても美味しい、2000〜3000円のワインは、クオリティが高く、かつコストパフォーマンスに優れているにもかかわらず、「フレンチではフランスワイン、イタリアンではイタリアワインしか置かない」というようなきわめて日本的な事情から、その売り先がなくて売れない。こういうワインと、消費者なり、飲食店なりを繋ぐことが、大きな課題でしょう。

高岡その課題を解くヒントが、限界がある「既にワインを扱っているところ」ではなく、 「ワインを扱っていないところ」へのアプローチであり、アプローチ先の開拓、というわけですね。

番匠その通りです。フレンチ=フランスワインとか、ワイン=レストランという日本独特の仕組みを見直してみる必要があると思います。

高岡むしろ、チャンスは増えているといっていいかもしれませんね。

番匠たとえばデパートのワイン売り場では、売れにくいとされる知名度低めの産地の、2000〜 3000円のワインが結構売れている。むしろそういうワインは「デパートでしか売れない」と言い換えてよいくらい。

高岡きちんと説明し、味見をしてもらえば、美味しいワインであるということが伝わりますからね。デパートというフィールドと、そういうワインの相性が良いわけですね。

番匠酒の嗜好にはサイクルがあるんですよね。ウイスキーなんて、ここ20年売れ行きが悪かっ たわけでしょう?それがこのハイボールブーム。焼酎もそうですよね。ワインも、きっとまた注目される時がくる。そのためにワイン消費のハードルをなるべく低くする準備が必要だと思います。

※本記事は、2017年5月17日にヒルトン名古屋で開催された「ワインコンプレックスOSAKA」会場パンフレットより転載いたしました。

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