東京ワインコンプレックス(Tokyo Wine Complex)

地方の食文化から秘められたワインポテンシャルを発掘する ─金沢編


特集:今、地方の食文化から秘められたワインポテンシャルを発掘する ─金沢編

北から南へと、長く国土を展開している我が国は、気候風土もさまざま。

土地土地に自然の恵みがあり、食文化も多彩です。

ワインもまた、自然の賜物にして、テロワールの恵みそのもの。

その地方ならではの文化を掘り下げることは、あるいは秘められたワインポテンシャルの発掘に繋がるのでは?

そんな想いからワインコンプレックスは、地方の食文化からワインの可能性を考察します。

第二回は、北陸の古都・金沢特集です。

酒界の識者訊く金沢ワイン事情

北陸の古都金沢といえば、独自の食文化を有する歴史深き土地柄。

鰤や蟹などの海のめぐみ、加賀野菜やジビエなどの山のめぐみに加えて、伝統に裏付けられた加賀料理など、内外の観光客を魅了してやまない。

一方で、数々の著名な酒蔵を有する酒どころであり、古くから日本酒文化が根ざした土地柄でもある。

こうした風土に、ワインはどのように切り込んでいくべきか?

地酒王国においてワインは苦戦中?

大正3年創業の老舗酒店「株式会社きたなか」代表取締役北中元章氏は、その難しさを痛感するお一人。

「伝統的な和食というものは、味わいが繊細で、基本的に薄味。こういう料理には、やはり日本酒が合います。ボルドーやブルゴーニュ、イタリアやスペインといった旧大陸の銘醸ワインのコク深い味わいは、邪魔になってしまうことが多いのではないでしょうか。」

同じく金沢市内で酒店を営む、「有限会社金沢マル源酒店」代表小林宏彰氏も、次のように現状を分析する。

「何といっても金沢は、地酒王国なのです。どうしても日本酒が強い。飲まれるお酒の9割が日本酒―といっても、過言ではないと思います。」

30数軒の酒蔵を有する石川県、ただ数が多いというだけでなく、菊姫、天狗舞、手取川、萬歳楽、宗玄、福正宗などなど、全国的にも知名度の高いブランドが数多あるというのが最大の特徴である。

「加えて最近では、ハイボールやレモンハイなどの低価格帯のアルコール類の消費が、家庭でも、飲食店でも伸びてきている。これは、肌で感じます。ワインは、苦戦を強いられているな、という印象が強いですね。」

北陸新幹線がワインの光明に

しかし、光明も見えてきている。

2015年に北陸新幹線の長野駅〜金沢駅間開業より、国内外の観光客が増加。これによる経済効果は、かなり大きい。

「新幹線が開通したことによって、駅前の再開発が飛躍的に進みました。それにともない、ワインを提供するお店も増えました。それまでワインというと、『フィレンチやイタリアンの専門店で飲むお酒』という、ちょっと敷居の高いイメージが強かったように思いますが、新幹線の開通以後、そういう業態以外のお店でも、ワインが提供されるようになりました。これをきっかけに、意識的な変化が起きている、と思います。」と、小林氏。

金沢市内においてワインバー「シャトーシノン」、ワインスクール「ル・サロン・ド・シノン」を経営する辻健一氏も、その変化を体感しておられるお一人である。

「私は、北陸におけるワイン文化を発展させていくことを目標に、2008年2月にワインバーシャトーシノンを、同年10月にワインやチーズについて学べるワインスクールル・サロン・ド・シノンをスタートさせました。その当時に比べると、金沢の人にとってワインは『緊張感をともなうよそ行きのお酒』から『楽しむお酒』へと変わってきているように感じます。」

観光客からのニーズも、金沢のワイン文化に大きな影響を与えている、と辻氏。

「金沢といえば、寿司は観光資源のひとつ。こうしたお店をとずれた観光客の方がワインを希望されるので、お寿司屋さんや割烹でも、ワインを置くところが増えてきています。私自身、料亭さんのワインプロデュースを手掛けていますが、そうしたお店の多くが『お客さんの要望があるのでワインを置きたいのだけれど、何を選んだら良いのか解らない』とおっしゃいます。

こうした悩みをフォローすることは、今後、ワインの消費を伸ばす大きなのびしろになり得るのではないでしょうか。何しろ石川県では、個人あたりの日本酒の年間消費量は平成28年度の統計で約7.8リットルですが、ワインは約2.8リットルに過ぎませんので。」

カギは「非和食店」と「ワインの非専門店」

「繊細な味わいを旨とする伝統和食店や、もうすでにワインが定着しているフレンチ、イタリアン系のレストランやビストロに、無理矢理ワインを入れ込もうとするのは難しいでしょう」と指摘するのは、北中氏。

「中華、焼肉、居酒屋などなど、今までワインが入り込んでいない飲食店に是非おすすめしたいのは、ルーマニア、南アフリカ、ブルガリアなど、新ニューワールドともいうべき国ぐにのワインです。旧大陸の銘醸ワインほど難解でなく、口あたりもよく、飲みやすい。伝統的な『和食』でなはく、日本人が日常食べている食事にも合わせやすい。ワイン業界にとっては、ニッチとニッチの組み合わせかもしれませんが、今後の展望として、大きな可能性を秘めていると思います。」

また、辻氏によれば、金沢の人は外食好きとのこと。

「観光客の方は、金沢の飲食店というと料亭、割烹、寿司店などをイメージされるかもしれませんが、そもそも飲食店が多い。カレー、焼肉、餃子、洋食などのいわゆるB級グルメも充実しています。」

確かに、人口1万人あたりの飲食店ランキングでは、石川県が全国7位と北陸3県では突出している(福井県11位、富山県34位)。

今までワインが置かれていなかった業態へのアプローチは、今後、かなりの期待が見込めるかもしれない。

インバウンド需要を満たすサービスマンのレベルアップ

金沢において、ワインの消費を伸ばすために重要なことの一つとして、小林氏は「サービスマンのレベルアップ」をあげる。

「ワインは、ただ提供すればいい、というものではありません。きっちりとお客さんにワインを説明し、的確なサービスができてこそ、本当の意味でワインの文化が浸透していくのです。」

特に金沢のような観光都市においては、海外からのお客様へのフォローが重要といえよう。

「金沢のインバウンドの特徴は、欧米、特にヨーロッパの方が多いこと。そもそもワインのことをよく知っている彼らに満足してもらうためには、サービスする側も、ワインについて深い知識を持っていなければなりません。」と、辻氏。

2017年の訪日外国人数は約2869万人。これは、前年比19.3%増である。消費額はおよそ4兆4161億円で、どちらもJNTOが統計をとりはじめた1964年以来最高。東京オリンピック・パラリンピックを控え、今後は毎年20%弱の伸び率が想定され、2020年にはインバウンドは3000万人を超える、と見込まれている。かつ、彼らにとって日本観光の目的として、「日本食を食べること」が第1位であることも指摘されている。

ペアリングの秘策

金沢の飲食店において欧米の観光客が飲むワインは、「『自分の国のワイン』か『日本のワイン』というのが現状」と、辻氏は指摘する。

こうした状況において、将来性のある秘策を有しておられるのが、北中氏である。

「濃厚芳醇な旧大陸の銘醸ワインや、パワフルなニューワールドワインは、和食の繊細な味わいを壊してしまう、ことが多い。しかし、優しい味わいの日本ワインには、和食に寄り添うものもある、かもしれません。ただ、ひとつ難をあげるとすれば、日本ワインは価格的に高価なものが多いということ。そこで、将来的に考えられるのが、地元ワイナリーとのコラボレーションです。」

石川県には、県内初のワイナリーとして2004年に設立された「能登ワイン」や、2012年に輪島市門前町に設立された「ハイディワイナリー」など、新進気鋭のワイナリーが存在する。さらに2017年には、金沢市に「金沢ワイナリー」が設立され、話題を呼んでいる。

北中氏は、こうしたワイナリーと、地元の酒販店や飲食店がコラボレーションすることで、地元ならではの、ワインと食のペアリングが成立するのではないか?と指摘する。

「気鋭のワイナリーに、和食にペアリングする優しい味わいのワインを、比較的安価な価格帯で造ってもらうのです。これを実現させるには、ワインの造り手、酒販店、飲食店が手を取り合い、知恵を出し合う必要があるでしょうが…」

品種の研究をし、テロワールを掘り下げ、造りの技にも磨きをかける長い時間を要する取り組みかもしれないが、こうした試みが実現すれば、インバウンドや日本人観光客のみならず、地元食文化にも貢献し得るだろう。

今後、こうした動きがプロジェクトとして始動することを、大きく期待したい。

達人がすすめる金沢の食材とのペアリング

金沢は、食材の宝庫ともいえる土地柄である。

たとえば、藩政時代からの伝統を誇る「加賀野菜」は現在、さつまいも、加賀れんこん、たけのこ、加賀太きゅうり、金時草、加賀つるまめ、ヘタ紫なす、源助だいこん、せり、打木赤皮甘栗かぼちゃ、金沢一本太ねぎ、二塚からしな、赤ずいき、くわい、金沢春菊の15品が認定されている。これらをバーニャカウダに仕立てれば、ワインのつまみとして大いに楽しめるだろう。

「私のお店でも評判の取り合わせですよ」と、辻氏がすすめてくれた、とっておきの「金沢ならではのペアリング」は、香箱蟹とシャンパーニュ。

「香箱蟹は金沢の名物で、ズワイガニのメス、セイコガニのこと。小さな蟹なので、身を食べるというより、濃厚な内子(卵巣)や外子(受精卵)、そしてミソを楽しみます。ちょっと意外かもしれませんが、この香箱蟹に、旨味のしっかりとしたシャンパーニュはとてもよく合います。ミソを食べ終わった後、甲羅にシャンパーニュを注いでいただくと、格別の味わい。また、濃厚な味わいの内子や外子には、渋味の少ない赤ワインがマリアージュすることも。ライトからミディアムタイプの、口あたりの良い赤ワインを試していただきたいですね。」

是非とも北陸の古都を訪ね、至極のマリアージュを堪能したい。


特集:今、地方の食文化から秘められたワインポテンシャルを発掘する ─金沢編



株式会社きたなか

大正3 年創業。金沢市の中心、片町・香林坊エリアの竪町通り(タテマチストリート)に店舗を構え、日本酒、洋酒、スピリッツなども幅広く取り扱う。ことにワインは、フランスを中心にボルドー、ブルゴーニュ、イタリア、スペイン、チリなど、豊富な品揃えで知られる。

北中元章氏株式会社きたなか 北中元章氏

株式会社きたなか代表取締役。老舗の3代目として日々多忙を極めるなか、地元の酒文化発展のために尽力し、斯界の関係者より尊敬を集める。



有限会社金沢マル源酒店

大正15 年創業。イタリア、フランスを中心におよそ3000 アイテムのワインを取り扱い、ネット販売も。片町には、アンテナショップ「ワインカーヴ・マルコ」を構える。

小林宏彰氏有限会社金沢マル源酒店 小林宏彰氏

有限会社金沢マル源酒店代表。創業一族に生まれ、幼少期より家業に親しみ、ごく自然に3 代目を継承。



ワインバー「シャトーシノン」 ワインスクール「ル・サロン・ド・シノン」

北陸におけるワイン文化を発展させていくことを目標に、2008 年に設立。以来、金沢のみならず、北陸地方のワイン文化の中心的役割を果たしている。

辻 健一氏ワインバー「シャトーシノン」
ワインスクール「ル・サロン・ド・シノン」 辻 健一氏

「シャトーシノン」オーナー、「ル・サロン・ド・シノン」講師。学生時代、ホテルフレンチでのアルバイト経験からワインに魅せられ、こ の道に。現在では、日本ソムリエ協会北陸支部長も務めるなど、北陸ワイン文化の牽引者的な存在に。/p>





※本記事は、2018年7月12日にホテル金沢で開催された「ワインコンプレックスKANAZAWA」会場パンフレットより転載いたしました。
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